教育シリーズ第一章
「美しい日本語」というと、どこか堅い印象を持たれがちです。
しかし、その本質は相手の受け取り方を整える技術にあります。
間違いではなく、「伝わり方のズレ」が信頼を左右します。
よくある言い間違いと“背景の構造”
- 「なるほど」「なるほどですね」
→ 本来は目上の人が目下に使う表現。お客様や上司に対して使うのは失礼です。 - 「とんでもございません」
→ 正しくは「とんでもないです」または「とんでもないことでございます」。 - 「了解しました」
→ ビジネスでは「承知いたしました」を使うのが基本。
これらは“丁寧に言おう”という意識が強すぎて、結果的に崩れたケースです。
つまり、敬意を込めようとするほど逆効果になることもあるのです。
「社長は何も存じ上げていないんですか?」― 二重敬語の落とし
この表現は一見丁寧に聞こえますが、実は誤りです。
「存じ上げる」は謙譲語であり、自分の動作に対して使う言葉です。
したがって、他人の行為に対して使うと敬語が二重になるのです。
❌ 社長は何も存じ上げていないんですか?
✅ 社長は何もご存じないんですか?
「ご存じ」は尊敬語。
目上の相手の動作には、自分を下げる表現(謙譲語)ではなく、相手を上げる表現(尊敬語)を使うのが正解です。
「社長が仰られたように」― 過剰な尊敬語に注
こちらもよく見かける過剰敬語です。
「仰る(おっしゃる)」自体が尊敬語であり、すでに敬意が含まれています。
そこに「〜られた」と重ねると、二重敬語になります。
❌ 社長が仰られたように
✅ 社長が仰ったように
敬語は「多ければ丁寧」ではなく、正しい位置に置いてこそ丁寧です。
過剰な敬語は、かえって不自然に聞こえ、相手に「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」な印象を与えることもあります。
「弊社」と「御社」はどちらも平板型 ― イントネーションの落差に注意
ビジネスの場でよく使われる「弊社(へいしゃ)」と「御社(おんしゃ)」には、イントネーションの違いはありません。
どちらも頭高型(あたまだかがた)で発音するのが正しいです。
●「弊社」
へ↘いしゃ
(最初の「へ」が高く、以降が下がる)
●「御社」
お↘んしゃ
(最初の「お」が高く、以降が下がる)
🎧 頭高型(あたまだかがた)とは
平板型とは、最初の音を高めに出し、そのまま平らに保つイントネーションのこと。
高低の落差をつけず、音の高さを一定にキープします。
- 「弊社」:へ↘いしゃ
- 「御社」:お↘んしゃ
どちらも、最初の拍が最も高い
その後の音はすべて低く落ちるという構造です。
⚠️ よくある誤り
平板型(へいばんがた)で発音すると見かけたらそれは間違いです。
よく若い方が
「弊社」:へい→しゃ→
「御社」:おん→しゃ→
と平板型で発音しているところをお見受けしますが、これは完全に誤りです。
ら抜き言葉
ビジネスの現場でよく耳にする「見れる」「来れる」「食べれる」。
これらはいわゆる「ら」抜き言葉であり、正しくは次の通りです。
| 誤り | 正しい言い方 |
|---|---|
| 見れる | 見られる |
| 来れる | 来られる |
| 食べれる | 食べられる |
「ら」抜きは、口では自然でも、聞き手には“軽く”聞こえることがあります。
たとえば、
「明日、来れますか?」
ではなく、
「明日、来られますか?」
と一音加えるだけで、声に落ち着きが生まれ、印象が引き締まります。
言葉の温度が、人の印象を決める
日本語の丁寧さとは、文法よりも呼吸と音の整え方です。
「言葉を整える」とは、発音・イントネーション・間の取り方を整えること。
また、敬語を正しい位置で使うことも、相手の心を整える行為のひとつです。
言葉を整えることは、相手を尊重すること。
敬語やイントネーションの一音一音に、あなたの誠意が宿る。
まとめ
- 「存じ上げる」「仰られる」はいずれも二重敬語。正しくは「ご存じ」「仰った」。
- 「弊社」「御社」は平板型イントネーション(お↗ん→しゃ→)で発音する。
- 「ら」抜き言葉は避け、「見られる」「来られる」「食べられる」と正しく言う。
- 丁寧さとは“過剰な敬語”ではなく、“整った音と姿勢”である。
美しい日本語とは、聞き手を整える日本語のこと。
言葉の温度が、信頼の温度を決める。
コミュニケーション・ラボ
Communication Lab SAKITA
テレアポアーティスト(テレアポ改善コンサルタント) 咲田哲良(さきたあきら)
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著者: テレアポアーティスト 咲田哲良(さきたあきら)
営業と教育を「整える力」で再構築する活動を展開中。
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著者プロフィール: テレアポアーティスト(テレアポ改善コンサルタント)咲田哲良のプロフィールはこちら
